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「はらおび(腹帯)」の話

 日本では、妊娠5ヶ月(妊娠16週から19週まで)になると、戌の日を選んで妊婦さんのお腹にさらしの白い布を二つ折りにして巻き付ける「はらおび(腹帯)」という風習があります。

 岩のように強くたくましい子どもがうまれるようにとの意味から「岩田帯」と呼ぶところあります。最近でもマタニティガードル、マタニティーコルセットで代用されることが多くなりました。脱着が楽で、ファッション的にもスマートなところから多く代用されるようになったと考えられていますが、マタニティガードル、マタニティコルセットも「腹帯」の一種と考えられます。「腹帯」は日本特有の風習で、欧米はもとより、アメリカインディアン、中国、韓国にも、このような風習はありません。妊婦外来で「腹帯」の効用は何ですか?との質問もよく受けます。

 腹帯の起源は、その昔、妊娠後期で身重であった神功皇后という女戦士が、朝鮮半島、新羅遠征の際、鎧が間に合わず、石をはさんだ帯を結んで出陣し、武勲を挙げ無事に凱旋し、応神天皇を出生したという、故事にあるといわれています。
この故事にあやかって、縁起を担ぐ意味もあり、平安後期、当時の京の貴族社会のなかで安産祈願の宗教的儀式として、腹帯がされるようになり、やがては江戸時代初期になって、庶民の間にも腹帯の風習が広がったと考えられています。

 当時は悲惨なことに、若い娘はひとたび難産になれば、帝王切開術などはもちろんなかった時代ですので、苦しむだけ苦しんで死を待つしかなかった時代です。
分娩は大変なリスクを伴っていました。この時代には安産のために胎児が育ち過すぎないようにと、今でいう児頭骨盤不均衡(CPD:cephalopelvic disproportion)を避けようと、効果があったかどうかは大いなる疑問ですが、腹帯をできるだけきつく巻いていたようです。

 江戸時代後期になって腹帯をきつく締め付けることはよくないと戒められるようにもなったが、出産にまつわる不測の事態は今日も同様ですがあまりにも多く、腹帯を巻く習慣を簡単にはやめることはできず、日本独特のこの風習は、今日にまで続いてきたと考えられます。
今日では、産科学的見地より胎児を入れた妊娠子宮を腹帯で締め付け、背中に押し付けることは、背部の自律神経節や腹部大血管や腎血管を、妊娠子宮が圧迫し、妊娠高血圧症候群の憎悪因子ともなるので、腹帯などというものは「百害あって一利なし」、やめるべきであると主張する産科医もいます。

一般的に腹帯の効用としては、腹部の保温、衝撃防止、おなかの垂れすぎ防止等があげられるが、いずれも産科学的意義は少なく、安産を祈願した信仰的、風習的意味合いや母親としての自覚を持たせる等の精神的意味合いのほうが強いかと考えられます。

また、戌の日に腹帯を巻く風習の理由は、戌(犬)が安産、多産だからという説が一般的ですが、古来より、犬は悪霊を防ぎ、狐狸より子供を守るという伝承をよりどころにしているという説もあります。
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